5年後、10年後には社会が一変している⁉
2024年もAIの進化は凄まじく、続々と新しいモデルやツールが公開されています。
特にオープンAIが発表したChatGPT-o1のインパクトは大きく、このモデルこそがシンギュラリティ(AIが人間の知能レベルに到達するポイント)への到達を意味するのでは無いかとの議論が起きるまでになっています。
実際にはシンギュラリティの定義自体が未だに曖昧な事もあって議論の域を出てはいませんが、大きな飛躍が続いている事は確かです。
こうした状況を背景にしてAI開発の先頭を走る研究者や事業家達の開発予測にも大きな変化が起きています。
変化する事自体は良いのですが、ここで問題なのがトップクラスの開発者達のAI開発予測が一般の人の感覚からすると現実感が乏しく、殆どSFかオカルトの世界に近づき始めているという事です。
2024年10月にもアンスロピックのCEがSFじみた(オカルトじみた)真剣な未来予測を発表しています。
本当に実現するのかは正直わかりませんが、AIの進化は少なくとも一般的な認識よりも遥かに早いペースで進む確率が非常に高いようです。
今回は彼らが今後10年ほどの期間に対し、どの様な将来予測をしているのかを紹介します。
アンスロピックCEOの将来予測
アンスロピックのダリオ・アモディ(Dario Amodei)CEOは2024年10月に 「 Machines of Loving Grace(愛の恵みの機械)」というエッセイ文を発表しました。
サブタイトルには「AIが世界をより良い方向に変える方法」とあります。
ダリオ氏は文中でプロパガンダと受け取られないように注意し、また「SF」的な要素は避けていると表明しています。
その上でダリオ氏は2026 年という早い時期に「強力なAI」が登場し得るとの考えを示しています。
そして強力なAIが登場すると、その後5~10年で驚異的な変化が引き起こされると予測しています。
「強力なAI」とはいわゆるAGI(汎用AI)のような概念ですが、ダリオ氏自身はAGIという表現が好きでは無く、強力なAIという表現をしています。
さて強力なAI登場から5〜10年で何が起きるのかですが、その予測が凄まじいのです。
ダリオ氏の主な予測は以下の通りです。
・生物学者が今後50~100年かけて達成する進歩を5~10年に圧縮できる
・殆どのがんの撲滅(死亡率と発症率の両方を95% 以上削減可能)
・アルツハイマー病の予防
・糖尿病、肥満、心臓病、免疫疾患の解決
・人間の寿命の倍増(150歳)
・精神疾患のほとんどはおそらく治癒できる
・最貧国でもマラリアなどが根絶する
・何十億もの人々が貧困から抜け出す
etc…
この予測は民主主義国家がAI開発で明確な優位を保つ事、人類を破滅に導くような対立を回避できる事が条件となっています。
その上で、ダリオ氏は既存の制度や政治の硬直性も考慮しながらそれでもAIが引き起こすであろう変革について考察しています。
いずれにしても社会を根本的に変えるような大きな変化が齎される事になりそうです。
経済面についても詳細な分析と考察をしていますので、興味のある方は原文を読んでみて下さい。
2024年ノーベル賞受賞者の予測
ディープマインド(現グーグル・ディープマインド)の創業者であり、現在グーグルAI研究部門のトップであるデミス・ハッサビス(Demis Hassabis)氏もAI開発の将来について興味深い発言をしています。
デミス氏は動画チャンネル”ハードフォーク”のインタビューの中で、あと2、3年でAIが多くの難病の治療薬を見つけ、そう遠くない将来にはエネルギーも殆ど無料になってお金の質が変わるのだと話しています。
デミス氏のインタビューはこちらで見ることができます。
HardFork動画
かなり現実離れした話に聞こえますが、グーグル・ディープマインドの目覚ましい成果を見るとデミス氏の妄想や願望という訳では無さそうです。
グーグル・ディープマインドは各分野の研究に特化したAIモデルを相次いで発表しています。
2023年11月には新素材の安定性を予測できるAIツール「GNoME」を公開し、驚異的なパフォーマンスを見せています。
過去10年間に人類が通常の実験方法で発見した結晶構造は2万種類、他の計算手法で発見したものが2万8000種類という中で、GNoMEは220万種類もの結晶構造を発見したと発表され、材料科学分野に大きな衝撃を与えています。
この発表には過大評価だとして意を唱える向きもありますが、GNoMEが大きな成果を発揮している事自体を否定するものではありません。
グーグル・ディープマインドは発見した、安定性の高い38万種類の結晶構造をデータベース化して学会に提供しており、素材候補が一気に拡大しています。
2020年11月30日には、タンパク質の構造を予測できるAIモデル「AlphaFold2」を発表しており、生命科学全般の研究に大きな影響を与えています。
デミス氏はこの実績が評価されて、2024年のノーベル化学賞受賞に繋がっています。
これほどの人物が語る予測なのですから、耳を傾ける価値はありそうです。
元オープンAI社員のエッセイ
2024年6月に元オープンAIのレオポルド・アッシェンブレナー氏が発表した「Situational Awareness」も重要な文章といえます。
アッシェンブレナー氏は2023年にオープンAIに入社し、同社の安全対策チームの初期メンバーとして参加しましたが2024年6月に解雇されたという経歴を持つ人物です。
解雇の理由はアッシェンブレナー氏がAIのセキュリティ上の懸念を取締役会に伝えたためとも、社内情報の漏洩に関与した疑いのためとも言われています。
アッシェンブレナー氏のブログエッセイ「Situational Awareness」の内容はオープンAI内で議論された内容を色濃く反映している可能性が高く、オープンAIがどの様な将来予測や将来への懸念を持っているかを知る大きなヒントとなります。
アッシェンブレナー氏によると、2027年までにAGIが実現する可能性が高く、AGIの登場が経済や軍事にも大きな影響を与える事を予測しています。
AGIによってAI研究自体が自動化され、科学技術の進歩が加速すると予測されます。
現状の核抑止体制は崩壊して新しい軍事技術の在り方が登場し得るとも言及しています。
AGI開発、更に超知能AIの出現が国家間の緊張、特に米国と中国との競争を激化させ、安全性を犠牲にしてでも開発競争が行われる懸念があります。
中国などによるAI技術の流出を防ぎながら、億単位のGPUを製造するために米国経済を戦時体制にして電力などのインフラを強化する必要があるとしています。
米国の電力生産は数十%増加して、大量のAGIが稼働する時代を迎える事を予測しています。
アッシェンブレナー氏のエッセイはこちらで見る事ができます。
まとめ
AIの進化が社会に影響を与えることについては異論が少ないでしょうが、AGIや超知能AIというものが実現した時にそれが社会にどんなインパクトを与えるかについてはなかなかイメージがしにくい部分があります。
ところが今回挙げたような最先端のAI開発者達は数年の内にAGIが実現し、5年から10年後には社会が一変するという刺激的な将来予測をしています。
予測はあくまでも予測でしかありませんが、こうした社会の大きな変化に備えておく必要はありそうですね。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
コメント