半導体不況の中でも躍進するAI向け製品
半導体業界はメモリーなどの落ち込みが激しく、2023年は半導体不況と言われました。
ただそうした半導体業界の低迷の中でAI向けの半導体(GPU)は大変な活況が続いています。
天文学的な資金が半導体の確保や開発に投入されています。
今回はAI向けの半導体がどのような盛り上がりを見せているか、解説します。
ホットな分野はGPU!?
話の導入をわかりやすくするために単純に半導体と言ってきましたが、AIの分野で騒がれているのはCPUとかGPUと呼ばれる、半導体を組み込んだ演算装置の事になります。
特に高性能のGPUは殆ど争奪戦の様相を見せています。
CPU(Central Processing Unit)はコンピュータの処理で中心的な役割を担っているパーツです。
汎用的な処理に優れており、コンピュータへの指示はCPUで一度処理されて、そこから実行に移されます。
インテル社とAMD社が世界で大きなシェアを握っている分野です。
一方のGPU(Graphics Processing Unit)は画像処理装置を意味します。
並列処理能力に優れ、データを大量かつ速く処理するために独特の仕組みをもっています。
最近ではこの計算能力を画像処理以外の領域にも利用できるようにした「GPGPU」と呼ばれるモデルも開発されています。
このGPUの市場でもパソコン向けではインテル社がトップシェアを握っているのですが、より高性能なGPUに絞ると、エヌビディア社が85%もの圧倒的シェアを持っています。
そしてこの市場こそが、現在狂乱の状況を見せているホットな市場なのです。
発端はChatGPT
その発端となったのは会話型のAI「ChatGPT」の登場です。
ChatGPTの開発過程で、AI開発では学習するパラメータ(変数)を多くすることで精度が上がる事が明らかになりました。
実際、ChatGPTを開発するオープンAI社のGPT開発では学習させるデータ量を下記の様に増やし続けています。
・GPT1 1.2億パラメーター(7千冊位のテキストデータ)を学習
・GPT2 15億パラメータ
・GPT3 1,750億パラメータ
・GPT3.5 3,550億パラメーター
・GPT4 1.75兆パラメーター
次にくるであろうGPT4.5ないしGPT5には更に天文学的なデータ量(パラメーター)を処理させる事になります。
その処理、トレーニングに必要なのが高性能なGPUなのです。
現在、この分野ではエヌビディア製のGPUが圧倒的に優れているとされ、IT企業による争奪戦が続いています。
ソフトウェアにも秀でるエヌビディア
ライバルメーカーももちろんGPU開発を進めています。
AMDも懸命な開発を続けていますが、GPUの性能ではまだ並んでいないというのが現時点での評価です。
GPUには半導体だけではなくソフトウェアも関係してきます。
インターフェースになる使いやすいソフトウェアについてもエヌビディアは質が良く、この点でもAMDをリードしていると言われています。
エヌビディアのGPUは1台4万ドル?!
エヌビディア社が開発した最新の法人向けAIのトレーニング用GPUは「NVIDIA H100」という製品です。
H100の1台の値段は1台約4万ドルです。
有力企業がエヌビディアのH100をどれだけ購入しているかというと、推定値ですが以下のようになります。
・GPT-4 2万5,000個
・メタAI 2万1,000個(2024年末迄に35万台の購入を表明)
・マイクロソフト 最大4万個
・テスラ 7,000個
・スタビリティAI 5,000個
しかもこのGPUは通常1個では使わず、基本的に8個を一組にしたユニット製品「DXG H100」という形にして使います。
このDXG H100の価格は1台で46万ドルにもなります。
H100を8個買うよりも更に高額になるわけです。
このユニットをAI開発企業が尋常で無い勢いで買い漁っている状況なのです。
GPUが5万台必要⁉
さらに大規模言語モデルを進化させるために、次のGPTでは5万台のGPUが必要とも言われています。
それでもH100は他のGPUよりコスパに優れるといわれていたりします。
もっと安いGPUを大量に使ってやろうとすると今度は電気代の問題などを抱えてしまう訳です。
今後の半導体の競争は、演算量の総量、つまり計算量を争っています。
日本の経産省は2018年と比較して2030年にはグローバルで70倍の計算量が必要になるとの資料を公開しています。
使用電力も15.8倍になると予測しています。
また情報のやり取りの量(トラフィック)も2030年には18年比30倍になるとしています。
将来的にはサーバーを持たせるための電力も取り合いになると見られ、半導体と共に世界規模での争奪戦が繰り広げられる事が予想されます。
粗利90%のGPU
しかもH100は粗利90%と言われています。
高性能GPUでトップを走るエヌビディアの株価はすごい勢いで跳ね上がり、半導体企業として初めての時価総額1兆ドル企業となりました。
トヨタが40兆円ぐらいの時価総額なので、エヌビディアはその3倍以上になります。
一方、嘗ての半導体の王者インテルは対照的に株価が低迷しています。
まとめ
AIにおけるChatGPTやオープンAI社の影響は大きいですが、エヌビディアはそれ以上の影響力を持っていると言えるかも知れません。
世界を代表するIT企業が揃って買い求める圧倒的な製品を持っている事の意味は計り知れません。
ただ一強による独占をみすみす許し続けるほど経済界は甘くなく、AMDやインテルといった他の半導体メーカーやスタートアップ「Rain」などが次世代GPUの開発を進め、そこに多くの資金も集まっています。
今後の先端半導体の勢力図がどうなっていくのかにも注目していくべきかも知れませんね。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
コメント