メタが2兆円でAI業界の超重要人物を獲得!Scale AIとアレクサンドル・ワンの正体

AI全般
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メタ史上2番目の大型出資

2025年6月、メタがScale AI社に143億ドル(約2兆3000億円)を投資し、同社の株式の49%を取得することを発表し話題となりました。
メタ社にとって史上2番目に大きな投資となった事もありますが、それ以上に注目を集めたのがメタの目的です。
今回、メタの最大の狙いはScale AI社の創業者兼CEOであるアレクサンドル・ワン氏とそのチームの取り込みだったと報じられています。
実はワン氏はAI業界の超重要人物であり、今回のメタの取り込みは今後のAI開発競争の趨勢にも影響を与えかねない事件なのです。
今回はScaleAIとはどの様な企業なのか、またワン氏とは何者なのかについて詳しく紹介します。

Scale AI社は”AIのツルハシ屋”⁉️

Scal AI社は2016年に米国サンフランシスコで設立された「AI開発を加速させる」ことをミッションとする企業です。
生成AIの開発には質の高いデータが大量に必要になります。
Scale AIはラベリングされた高品質データを提供し、生成AI開発の裏方として成長してきました。
半導体を提供するエヌビディアと並ぶ、AIゴールドラッシュの「ツルハシ屋」となり大きな成功を収めたのがScale AIなのです。
Scale Aiの顧客にはオープンAI、グーグル、マイクロソフト、メタといったIT系の超巨大企業が並び、更には自動運転開発などを手掛けるWaymo、GMクルーズ、トヨタ・リサーチ・インスティチュート、米国防総省なども名を連ねています。

ラベル付けしたデータを提供

Scale AIの提供するラベリング・データとは画像やテキスト、音声、動画などの未加工のデータに正解となるラベルや注釈を付けたものです。
ラベル付けされたデータは「教師データ」とも呼ばれ、AIモデルが適切に振る舞うための学習材料となります。
AIの予測や分析の精度は、学習データの質によって決定されるた高品質なデータが極めて重要となります。
Scale AIではこのラベル付けを人間による作業「人海戦術」によって展開し、データを用意していました。
ラベル付データにはオーディオの分類や画像、テキスト、ビデオのラベリングなど様々なカテゴリーがあります。
具体的には人の画像から表情を分類したり、道路の画像から人や自動車などを分類したデータを提供しています。
医療画像から腫瘍を特定するといったデータもあります。

メタによる投資とその影響

メタはScale AIに143億ドル(約2兆3,000億円)を投資して株式の49%を取得することを発表しました。メタの投資によりScale AIの評価額は290億ドルとなっています。
メタはScale AIが独立企業としての立場を維持するとしていますが、Scale AIの中立性には疑念が生じており、メタの投資発表を受けてオープンAIとグーグルはScale AIとの協業を打ち切る事を決定しました。
グーグルも契約を解消する方針と報じられ、マイクロソフトも契約の縮小を検討と、Scale AIとの距離を置く動きが加速しています。
Scale AIとの関係を解消した企業は、代替サービスを探す事となるため、Labelbox、Mercor、Handshake、Invisible Technologies、Turing、Appenといったの企業に事業機会が生まれています。

AIエコシステムのブロック化

メタは今回の投資をAI開発競争の主戦場が「データ覇権」へと明確にシフトした転換点と位置付けています。こうした動きはAIエコシステムがメタ陣営、グーグル陣営、オープンAI & マイクロソフト陣営へとブロック化して行く状況を示しています。

Scale AI躍進の裏にある課題

Scale AIは安くて速いデータラベリングを提供する事で急成長を果たしましたが、その過程で作業の多くを低賃金の海外委託業者に依存してきました。
子会社のRemotasksを通じて、フィリピン、ケニア、ベネズエラなどを始め低賃金国を中心に24万人以上の人々がフリーランスという立場でデータのラベリング作業を担っています。
その多くは最低賃金を下回る報酬で働かされているとの指摘もあり、報酬制度の不透明性も問題視されています。
こうした作業については労働者を雇わず、請負の形で仕事が発注されるため労働法による保護を受けにくい点も指摘されています。
またドローン映像の爆撃結果や暴力、性的な画像など精神的に負荷の高い有害なコンテンツを見させられることが問題となり、一部で労働組合が結成される事態にも発展しています。
Remotasksは日本でも高時給アルバイトとして募集されていますが、作業の機械性や精神的負担が指摘されています。
こうした問題からScale AIは「AI時代の搾取王」と批判されることもあります。
AI開発がやや労働搾取的な人的作業によって支えられてきた事は、華やかなAI開発の裏にあるもう1つの事実と言えるでしょう。

アレクサンドル・ワン(Alexandr Wan)氏

Scale AIの共同創業者、アレクサンドル・ワン(Alexandr Wan)氏は中国系米国人の実業家です。
ワン氏の名前の表記が「アレクサンダー(Alexander)」では無く「アレクサンドル(Alexandr)」となっているのが特徴的ですが、これは中国系移民にとって縁起が良いとされる数字8文字にしたかった為と言われています。
別人ですが、アレクサンダー・ワン(Alexander Wang)というNY発の国際的なファッションデザイナーも活躍している事から、メディアでもアレクサンドルという表記が強調される様になっています。
ワン氏の両親はニューメキシコのロスアラモス国立研究所に勤める物理学者で、ワン氏も数学とプログラミングの才能に恵まれ、数学オリンピックのメンバーにも選ばれています。
ワン氏は十代前半には早くもソフトウェアエンジニアとして働きはじめています。
その後、名門マサチューセッツ工科大学(MIT)に進むとコンピュータサイエンスと数学を専攻し、 人間の感情や意図を理解するアルゴリズムを開発するプロジェクトに取り組みます。
そこでAIが複雑な問題を扱う可能性に気づき、またAI開発における高品質なデータの不足という課題を強く認識します。
2016年にはMITを中退し、同年に19歳の若さでScale AIを共同設立しました。

史上最年少のビリオネア

ワン氏はシリコンバレーで毎晩の様に開かれるパーティーに頻繁に出入りしていたことでも知られ、シリコンバレーではよく知られる人物となりました。
オープンAIのサム・アルトマンCEOとルームメイトだった時期もあるようです。
Scale AIは躍進し、ワン氏は24歳で世界最年少のビリオネアとなります。
AIで成功しシリコンバレーの人脈にも精通するワン氏を称して、ブルームバーグは「AI業界の他の全員が何をしているか知っている唯一の人物」と紹介しています。

米国の安全保障にも関与

ワン氏 はAIが安全保障の重要な要素であると考えており、米国のデータ活用不足を戦略的脆弱性と見なしています。
AI技術の特に情報戦における力を認識しており、テックコミュニティに国家安全保障への協力を促しています。
ウクライナにおけるAIの活用にも関与しています。
2024年の米大統領選挙ではドナルド・トランプ大統領候補(当時)に書簡を送り、AIの発展のために米国政府がビッグテックに倣ってデータやコンピューティングへの支出を増やすべきだと提言しています。

メタのAI人材流出問題

メタはワン氏に2兆3000億円もの資金を投じてワン氏をリクルートしました。
もちろんScale AIの事業にも魅力を感じての投資である事も確かでしょうが、それにしてもワン氏を高く高く評価していた事は間違いありません。
また一方でメタはAI人材の大量流出という大きな問題を抱えていました。
メタは独自の大規模言語モデル「Llama」を開発していますが、Llamaの最初の論文の14人の著者のうち11人もの人材が既にメタを去っていると報じられています。
主な転出者は以下の通りです。錚々たる転出先ですね。

・ギヨーム・ランプル氏、ティモシー・ラクロワ氏⇒Mistral AIを共同設立(2023年5月)
・バティスト・ロジエール氏 ⇒Mistral AI(2023年5月)
・マリー=アンヌ・ラショー氏⇒Mistral AI(2023年5月)
・ティボー・ラヴリル氏   ⇒Mistral AI(2023年5月)
・ナマン・ゴヤル氏      ⇒Thinking Machines Lab
・オーレリアン・ロドリゲス氏⇒Cohere
・エリック・ハンブロ氏   ⇒Anthropic
・アルマンド・ジューリン氏 ⇒Google DeepMind
・ゴーティエ・アイザカルド氏⇒Microsoft AI
・エドゥアルド・グレイブ氏 ⇒Kyutai

AI業界は人材の獲得競争が激化しており、メタも人材引き止めができず深刻な状況を抱えていたわけです。
大規模言語モデルの開発実績のある技術者などは自ら起業しても直ぐに資金が集まる環境となっておりビッグテック企業といえども人材の確保は容易ではありません。
ただもちろんメタがこの状況を放置していた訳でもありません。
メタのザッカーバーグCEOはインスタグラムなど業界を驚かせる大型買収をいくつも成功させており、事業の将来性を見抜く力には実績があります。
ザッカーバーグ氏にとってワン氏がどうしても獲得したい人材だった事が容易に予測できます。

メタのスーパーインテリジェンス開発チームに

2025年6月にメタがScale AIに巨額投資を行った際に、ワン氏はScale AIのCEOを退任し、メタのスーパーインテリジェンス(超知性)開発チームのリーダーになることが発表されました。
ワン氏は引き続きScale AIの取締役を務めます。
マーク・ザッカーバーグCEOは、ワン氏をメタがAI研究を加速させるための人材獲得の目玉と位置づけています。
ただワン氏には研究主導のAIラボを率いた経験がないため、メタはGoogle DeepMind出身のジャック・ラエ氏など、研究実績のある人材の採用も併せて進めています。

AI開発の先頭グループにくさび

メタの開発した大規模言語モデル「Llama」はAI業界でも評価が高いモデルでしたが進化の早いAI業界で圧倒的な地位を築くまでには至っておらず、シリコンバレーの重要人物を得た事でAI開発がどう展開されるか注目されます。
AGI(超AI)の開発においてもグーグル陣営、オープンAI & マイクロソフト陣営、xAI陣営が先頭グループを形成しつつありましたが、ここにメタが大きなくさびを打った形です。
今後のワン氏の手腕に期待したいですね。

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