すっかり社会に定着したAIという言葉
AIを巡るニュースが連日メディアに溢れ、「AI」という言葉がすっかり社会に定着した感があります。
投資やビジネスの世界ではその傾向が非常に顕著に現れており、業界を問わずAIの動向を無視できない状況となっています。
5年前には想像もできないほどのAIの浸透ぶりですが、この間に何が起こったのでしょうか。
シンギュラリティ
いきなり専門的な用語になってしまいますが、AIの進化を語る上で避けて通れないのが「シンギュラリティ」という概念です。
シンギュラリティ(技術的特異点)は、人工知能(AI)がその進化によって人間の知能を超える転換点の事を指す言葉です。
2005年、米国の発明家であり未来学者でもあるレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏が著書『ポスト・ヒューマン誕生/コンピューターが人類の知性を超えるとき(The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)』の中で、2045年にはシンギュラリティが実現するとの予測を示し、大きなインパクトを与えました。
AIが進化を続けて40年後には人間に追いつき追い越してしまうという明確なイメージが人々の未来感に影響を与えたのです。
シンギュラリティが大幅に早まる⁉️
ところが2022年の秋以降、シンギュラリティの議論に非常に大きな変化が生まれます。
AIがシンギュラリティに到達する時期が従来の予想(2045年頃)よりも大幅に早まりそうだと言うのです。
落合陽一氏も2023年のはじめに「再来年( 2025年)にはシンギュラリティが来るのでは」と発言していますし、AI開発の現場に近い多くの研究者や開発者がこれに近い認識を共有するようになりました。
最近では更に進んで2024年9月にシンギュラリティに到達してしまったのでは無いかという意見さえ聞かれています。
一体何が起こったのでしょうか。
ChatGPTの出現
シンギュラリティの議論を根本的に変えるきっかけとなった事件、それが対話型AIツール「ChatGPT」の出現です。
オープンAIによって開発され、2022年11月に公開されたChatGPTは公開後わずか2ヶ月で1億人のユーザーを抱える特大のヒットとなりました。
ChatGPTはそれまでのAIとは比較にならないレベルの言語認識能力を備えており、これによって自然言語によって指示できる本格的なAIが実現しました。
多くの人がAI新時代の到来を感じるだけのインパクトがあり、実際、ChatGPTの登場を境に続々とAIモデルやAIツールが公開されるようになえい、AIを巡る環境はもの凄いスピードで変化することになりました。
桁外れの資金が流れ込むAI開発
AIの世界ではグーグル、マイクロソフト、メタ…といった世界を牽引する巨大テック企業や幾多のスタートアップ企業が尋常ではない資金を投入して開発に乗り出してきました。
その投資金額はもはや企業の投資という次元ではなく、殆ど国家予算のような金額にまで膨れ上がっています。
何故その様な桁外れの資金が投じられる様になったのでしょうか。
それはオープンAIが2020年に発表した2つの論文に端を発しています。
オープンAIの2つの論文
ChatGPTの公開よりも2年ほど遡った2020年にオープンAIはAIのスケーリングに関する2つの論文を発表します。
より正確に言うと1月23日に 「Scaling Laws for Neural Language Models」、10月28日に 「Scaling Laws for Autoregressive Generative Modeling」という論文を発表しています。
1月の論文では言語モデルの性能がパラメータ、データセットサイズ、計算予算を変数としたシンプルなべき乗則に従う事、ならびにスケーリング法則の上限が見当たらず、性能に限界が存在しない可能性を示します。
更に10月の論文では画像・動画・マルチモーダル・数式といった生成モデルにもスケーリング法則が適用されることを明らかにしました。
ちょっと話が難解ですね。
誤解を恐れずにまとめると、要点は以下の3つです。
・AIの開発では、高性能なコンピューター(演算装置)をずらって並べて大量のデータをフルパワーで計算(教育)させる能力がどんどん上がっていく。
・この方法での性能の向上には限界が無いように見える。
・この方法は画像生成や動画生成などの分野でも当てはまる。
この法則に則ると、単純に「大量の最先端の演算装置」「大量のデータ」「大量の電力」を揃えればより高性能なAIを作れることになります。
実際オープンAIは研究結果を基に当時の同社としては常軌を逸する規模(約5億円、人件費を含めると約15億円)の資金を投入して言語モデル「GTP-3」の開発を進めました。
それが2022年のChatGPT公開へと繋がっていくわけです。
AI開発に動き出したビックテック
マイクロソフトはオープンAIに巨額の出資を行い、グーグルやメタ、アップル、アマゾンも独自のAI言語モデルの開発に動き出します。
アンスロピックやxAIといったスタートアップ企業も巨額の資金を調達して開発競争に参戦してきました。
中国やフランス、中東などでもスタートアップ企業の参入が相次ぎました。
巨額の資金と競争によってAIの性能は驚異的なスピードで上がり続けることになります。
その間にAI開発の核ともなる演算装置の部分に使われた半導体ユニット(GPU)で独占的な地位を築いたエヌビディアが急成長を果たし、一時は時価総額1位の座に踊りでる快挙を成し遂げました。
進化が加速するAI
こうした開発競争の結果、AIの進化は当初考えられていたものより遥かに早く進化の階段を駆け上ります。
当初は2045年頃と見られていたシンギュラリティの到来は、ChatGPTが登場すると2025年頃に来てしまうのではないかと言われるようになり、間もなくその意見が相当数を占めるようになります。
シンギュラリティの定義自体が明確なものになっていないため、認定するのは簡単な話ではないのですが、シンギュラリティの到来が20年も早まるというコンセンサスが形成されるようになったのです。
”o1”はシンギュラリティか⁉️
更に2024年9月にオープンAIの新モデル「o1 Preview」が公開されると、その高い推論能力に対して、これはシンギュラリティの到来では?という意見も上がるようになりました。
o1 PreviewはIQテストで120をマークしたとも発表されており、もはや人間を超えているとの見方が出てきたのです。
この評価については現在は意見が分かれていますが、AIの進化がシンギュラリティに大きく近づいていることは疑いありません。
汎用人工知能(AGI)の実現
シンギュラリティの先には人間を圧倒的に上回る超AIの登場が予想されます。
一般的にはAGIあるいはASIなどと呼ばれる存在です。
AGI(Artificial General Intelligence)は汎用人工知能とも呼ばれる概念です。
人間を圧倒する知能を持ち、さまざまな問題を自律的に解決できる能力を持つとされており、現在のAI開発競争の中心は正にこのAGIの開発にあると言えます。
前述のレイ・カーツワイル氏の最近の発言では2029年までにはAGIが生まれると予測を示しています。
他の有力研究者や起業家の発言を見ても2027年〜2029年の間にAGIが開発されると見る意見が多い状況にあります。
まとめ
シンギュラリティやAGIが実現すると社会や経済に大きな影響を与えます。
労働市場は大きな変化を余儀なくされるでしょうし、人と人あるいは人とAIのコミュニケーションも変わっていくかも知れません。
メリットもデメリットも当然ありますが、おそらくAGI実現への流れを止める事は不可能です。
この大きな流れの中でどうAIを活用していくかを考えていかなければいけないですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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